コラム&メッセージ

COLUMN 2025.07.28

益田 裕介さん
早稲田メンタルクリニック院長

精神保健指定医、精神科専門医・指導医。防衛医大卒。 防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、 早稲田メンタルクリニックを開業。
YouTubeチャネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」を運営し、登録者数は67万人を超える。 患者同士がオンライン上で会話や相談ができるオンライン自助会を主催・運営するほか、精神科領域のYouTuberを集めた勉強会なども行っている。

外来診療を行いながら、診療後に動画を撮影し、YouTubeチャネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」を配信している益田裕介さん。
チャンネル登録者数67万人超の人気ユーチューバーでもある益田さんに、今回は、心身の不調を抱える20代の若者に向けて、お話を伺いました。

心身の不調を抱える20代の若者に向けて

心身の不調を抱える若者たちと向き合ってきた益田先生に、精神科医の目線でアドバイスをしていただきました。

① 益田先生の自己紹介

防衛医大(防衛医科大学校医学科)を卒業し、陸上自衛隊を経て、2018年に精神科クリニック(早稲田メンタルクリニック)を開業しました。

2019年からYoutubeを始めて、2022年からオンライン自助会・家族会という患者会(精神疾患や生きづらさを抱える人、そしてその家族のための場)を運営しています。

② 20代の若者の特徴は

今の20代の若者の特徴は、モラトリアムが延びていて昔の人よりも幼い印象です。寿命が延びているので、「若者」の期間が長いんです。だから今の大学生や新入社員は、昔の高校生みたいな感じが正直ある。入社1年目・2年目の新入社員の方は昔の大学生みたいな感じがしています。

実際、結婚する年齢も遅くなっていて、全体的に幼いというか、若いな、というのが今の若者の特徴かなと思います。

私が若者に向き合うときには、たとえばメモの取り方とか、手帳のつけ方とか、社会人としての必要なことを説明することも多いですね。在宅勤務も当たり前になっているので、かつては仕事帰りの飲み会とか、職場での雑談の中で教わったような当たり前のことを教わる機会が少なくなっているんだと思います。

③ 益田先生が20代で悩んでいたことは

僕が20代の時に悩んでいたことは、(所属する)自衛隊が大きな組織だったので、「何でこんなルールがあるんだ」とか「これは効率が悪いんじゃないか」とか、全部に疑問を持って腹を立てていました。

大きな組織なので仕方がないということを、まだ分かっていませんでした。社会をだんだん知ってきて、煩わしさやルールは仕方がないんだな、ということを覚えたのが(私の)20代でした。

あとは、劣等感がすごく強かったですよ。僕らは自衛隊の仕事もしていましたが、周りの医学部はもっとできているとか、この年齢ならもっと医療のことをできているのにという思いが強く、焦っていました。

実際には半年とか1年経てばできることもいっぱいあるんですが、当時は半年とか1年後はすごく先に思えていたので、すごく焦っていた、ということがありますね。

④ 現代の20代と比べての違い

現代の20代と比べると、承認欲求に対する希望というか、欲求感というか、欲しがり方が全然違うんですよね。

僕が20代の頃は、もう少し物欲に支配されているというか、「いいものを買いたい」とか、「いいものが欲しい」という思いが強かったですね。「高級時計が欲しい」みたいな。

今の若者は「高級時計が欲しい」という人はほとんどいなくて、それよりも「イイネの数が欲しい」とか、そういう感じなので、全然違うな、と思います。

逆に僕らはお金で手に入るものだから、欲望を満たしやすいなと思います。今の若者たちは、(スマホやSNSが)あって当たり前みたいになっているので、余計手に入れるのが難しくて苦しそうだな、といつも思っていますね。

今の若者はスマホがあって、常にスマホでモノを検索ができる。逆に言えば、常にスマホから情報を得ていないと不安だったり、常にスマホから仕事の依頼もきたり、ずっと頭を使っていると思います。スマホ依存というか、スマホの使いすぎによるうつだとか、摂食障害とか、ルッキズムとか、そういうことに苦しんでいる若者が多いと思います。

⑤ 終身雇用制の時代が終わって

転職が当たり前になって良いこともありますし、不安もあると思うんですよね。上の世代に相談しても、まだ終身雇用制の世界観から抜け出せていないので、良い相談相手になれていないこともたくさんあると思います。ただ、やるしかないので、臨機応変にやっていくしかないですね。

世代ギャップというか、世代によって価値観が違うということは古今東西ずっとみられることなので、最近だからということではないですよね。

人生はレールがあるものではないので、自分で判断して生きていくしかないと思います。

⑥ 自分で判断して生きていくためには

自分で判断するためには、価値観を確立させることなんですね。これはパーソナル哲学とも呼ばれていて、パーソナル哲学を確立するためには多種多様な学習が必要です。自分が何に価値を見いだしているのか、どういうものを美しいと思うのか、たくさんの内省が必要、知識も必要です。

それは、AIを壁打ちにするといいよね、という話はよくしています。もちらん僕らを含めていろんな人と話すというのもひとつのトレーニング方法ですけど、最近では、AIを利用して加速させるとよいという話をしています。考え方を変える、考え方を明らかにすることですね。

たとえば転職した方が良いのか、しない方が良いのかは、するメリットもあるし、するデメリットもある。しないメリットもあれば、しないデメリットもある。どちらが正解ということではないです。このようなことをトロッコ問題と呼んでいます。哲学的な思考実験ですが、現実によくあることです。

転職するかしないか、離婚するのが良いのかしない方が良いか、こういう時には答えがないわけです。どっちも答えなんですね。だから、自分がどういう価値観を持っているかを明らかにして、それに基づいて決定しなければいけない。

お金よりも自由を選ぶ人もいれば、自由よりも安心をとる人もいるわけで、それは人によって違います。自分はどちらかを明らかにするためにパーソナル哲学を確立する必要があります。

⑦ AIをうまく活用して

パーソナル哲学を作るためにはいっぱい学んで考えないといけない。だけど一人で考えていると行き詰まるので、いろんな人としゃべるのも良いですが、それには時間的な制約もあるので、昔の人が本を通じて著者と対話していたように、今の人はAIを使って対話をすると効率が良いですよね。

たとえばAIに「ソクラテスの役割でしゃべってください」といえば、ソクラテスとしゃべるような感じがするので、そういうことをやってみることもすすめています。

⑧ 治療の際に特に気をつけていること

すぐに診断を決めつけないこと、すぐに薬を出すことはしないですね。まず本人の社会背景とか、悩んでいる内容を整理して診察します。その上で休養を促して、それでもよくならなければ薬を使う、というように気をつけています。

(写真は早稲田メンタルクリニックの受付の様子)

⑨ 不調を抱える若者に対してアドバイス

リラックスする方法を身に着けてもらうようにしています。とにかくスマホを触らないこと。そのうえでマインドフルネスというか、軽い瞑想、座禅をしてもらうことを推奨しています。

目を閉じて(目から)情報を入れずに深呼吸をし続けます。深呼吸をしていると、だんだんと心臓の動きがゆっくりになってきます。心臓の動きがゆっくりになってくると、それに合わせて脳もリラックスして冷静になってくるんですね。

逆に不安なとき、落ち着かないとき、疲れているときは、脳みそがカッカしていますよね。カッカしているときは、心臓の動きも速くて呼吸も浅いんです。だから強制的に深呼吸することで、心臓の動きもゆっくりになって呼吸に引っ張られて冷静になっていくんですね。これをまずマスターしてもらうということをしています。

座禅を組んでいると呼吸に集中しているんですけど、だんだんと飽きてきて別のことを考え出すんですね。何か考え出したときに「いかん、いかん」と思ってまた呼吸に戻る。呼吸に集中しているとまた何かを考え出して「いかん、いかん」と思ってまた呼吸に戻る。この連動をやってもらうことがマインドフルネスというか、座禅することです。これをまずは身に着けてもらうようにしています。

⑩ マインドフルネスを実践して

やってみるとですね、体の疲れとか、いかに自分が傷ついていたかが分かるんじゃないでしょうか。思ったより調子が悪いな、とか、肩痛いなとか胃もたれしているとか、分かると思います。こういうふうに自分の内側に目を向ける、そういう時間をつくることが大切ですね。

これが5分続けられない人は大分調子が悪いので、精神科の受診を検討してもらえるといいかな、と思います。

⑪ 動画を見ているあなたへ

今の20代はいろんな人から期待されて「チャレンジしろ」って言われるんですね。自分も頑張らなきゃって思っている若者も多いです。

一方で、20代は諦める時期でもあります。あれができないな、これはできないな、と思って自分の可能性を狭めていく。狭めていって残ったものを磨くのが30代になっていきます。

無理せずに、できないものはできないって諦めて可能性を削る勇気、諦める勇気も持ってもらえたらな、と思います。

YouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」

https://www.youtube.com/@masudatherapy

早稲田メンタルクリニックHP

https://wasedamental.com/